クラウドサーカス株式会社が提供するARツール「COCOAR」を導入されているお客様の事例をご紹介します。
今回は、泉屋博物館東京の橋本様に取材をさせていただきました。
内容まとめ
✓青銅器の3Dデータを楽しんでもらえる形で活用したく、助成金を使った地域連携デジタルスタンプラリーを検討。
✓スタンプだけでなく、特典までデジタル化した企画が実現できるクラウドサーカスのCOCOARを導入。
✓期間限定ながら170名以上が参加!工数削減しながらファンに楽しんでもらえる企画を実現できた。
目次
泉屋博古館は、住友コレクションをはじめとした美術品を保存・研究・公開する美術館です。
住友家が貯蔵していたコレクションは中国古代青銅器をはじめ、中国・日本書画、西洋絵画、近代陶磁器、茶道具、文房具、さらには能面・能装束など幅広い領域にわたります。
現在は3,500件(国宝2件、重文19件、重要美術品60件を含む)を超える作品が所蔵されています。京都と東京の2都市で、それぞれに地域の特性も活かしながら展覧会を開催し、住友コレクションの魅力を発信する施設として運営しています。
▼中国青銅器
ーー企画を実施された背景について教えてください。
橋本様:今回の企画の目的は、青銅器をたくさんの人に知ってもらいたいという「認知拡大」と、SNSを意識した広報的な話題作りの面。そして同時に、「3D撮影した作品データを有効活用したい」という目的もありました。
もともと京都の泉屋博古館では、所蔵の中国古代青銅器について、CT撮影や蛍光X線分析など、最新の技術を用いた科学的なアプローチで研究を積み重ねています。今回は3Dスキャン撮影で3Dデータを展示で活用すると知り、青銅器を学術的に普及させたい、かつ展覧会会場以外の場でも、楽しみながら親しみや興味を持ってもらえるような形で提供できないかと考えていました。
また、3Dデータを活用する展示を行なうために、文化庁のInnovateMUSEUM事業助成の申請を検討しており、地域の文化財資源活用や、他館との連携も課題でした。施設連携施策といえばスタンプラリーが定番ですが、スタンプラリーだけをデジタル化しても、結局は台紙・景品準備・引き渡しの面で管理業務が煩雑になってしまいます。そのため、せっかくやるなら特典までデジタルで完結させたいというのも前々から思っていたことです。
今回の「不変/普遍の造形」展では、3D撮影を実施し、そのデータを活用して動画制作やホログラム展示を行なうプランを考えていました。ただせっかく撮影した3Dデータを他方面でも広く活用したいと考えていたことから、「AR」という選択肢に行きつきました。
ーー「3Dを活用する上でARと相性がよいのではないか」という軸のほかに、地域連携という軸でも施策を検討されていたのですね。
橋本様:助成金申請の上では地域連携も重要になるので、他館との回遊施策を作れたらいいな、それならスタンプラリー施策がいいのではないかと考えていました。ただ当館はこれまで区内や地域施設のスタンプラリーに会場の一つとして参加したことはあっても、主催として企画運営したことはありませんでした。
主催するにあたり、ARコンテンツを景品にできれば、自館・共催館ともに負担を最小限にできるのではないか。さらに、お客様の手元で青銅器の3Dを楽しめれば、新しい試みとしても非常に面白そう、SNSを通じて青銅器の魅力を知っていただく機会の創出につながれば最高だな、と考えていました。
このように自分の中で、デジタルスタンプラリー×ARコンテンツの施策イメージが具体的に膨らんでいく反面、「果たして実現できるのか?両立できるサービスはあるのか?どこから探したらいいのか?」と模索していました。
ーーデジタルスタンプラリーについて、様々調べていた中、LESSARにたどり着いたのですね。
橋本様:そうですね、デジタルスタンプラリーができるシステムを調べていた中で、クラウドサーカスのWebARツール「LESSAR」を見つけました。最初はわからないことも多かったため、質問フォームで「こんな企画はできますか?」と質問させていただきました。
ーーARについては、以前からご存知だったのでしょうか。またどのようなイメージを持たれていましたか?
橋本様:タローマンARに家族でハマったことがあり、街中好きな場所にキャラクターを出現させて写真を撮れる体験がとても楽しかったことから、ぼんやりと「ARで青銅器が出せたらいいな」というイメージはしていました。
また京都本館のTwitterでは、レプリカの鴟鴞尊(しきょうそん)が、おめかししたり、スイカ割りをしたり、お茶を楽しんだり、とさまざまな姿の写真を撮影して発信していました。それを見ていて、ファンの方はきっと「自分の手元でできたらいいな」と思うのではないか、また私自身もやってみたいなと思ったのもきっかけのひとつです。
美術館での作品鑑賞はあくまで「人がコレクションした作品を美術館の中で見る」という行為です。しかしその作品を自分のスマホで、自分のいる空間にARとして出現させられれば、擬似的に作品を所有するような体験ができるのではないか。まるで自分のコレクションかのような気持ちで作品を愛でることができるのも、とても魅力的だなと感じました。
そこで私と、京都本館の青銅器担当の学芸員、3D撮影をしてくださった業者の方の3人で、「鴟鴞尊(しきょうそん)の3D ARが実現できたらいいですね!」と話す中で、プロジェクトの方向性も固まっていきました。
▼京都本館のTwitter
(あれ?本物ちゃん、首が正面に向かずにかわいい角度になってるやん??)
— 泉屋博古館@【開催中】光陰礼讃-近代日本最初の洋画コレクション展 (@SenOkuKyoto) November 7, 2020
鴟鴞尊(しきょうそん)商後期#青銅器かわいい pic.twitter.com/jL9ACeCvh1
果たしてこれが実現可能なのか、どんなふうに楽しんでいただいたらよいだろうかと、御社にご相談させていただきました。
ーーその中で、弊社のWebサイトをご覧いただいて、スタンプラリーとARを同時に実現できそうだと感じていただいたのですね。
橋本様:打ち合わせでは、デジタルスタンプラリーだけでなく、特典として「青銅器の3D画像を活用したARフォトフレーム」を提供したい、という流れまでセットでお話を進めさせていただきました。最初はWebAR「LESSAR」を見て問い合わせたのですが、担当の方からアプリ型のAR「COCOAR」の方が企画に相性が良いとご紹介いただき、導入を決めました。
デジタルスタンプラリーについてはほかにも何社か資料請求したものの、早い段階から両方を実現できることがわかったため、打ち合わせでお話を聞かせていただいたのは御社だけでした。
\ 3分でわかる!/
「COCOAR(ココアル)」とは?
概要資料はこちら >
ーーどのような企画を実施されましたか?
橋本様:港区内で、中国古代青銅器を所蔵・展示する美術館3館をめぐるデジタルスタンプラリーを、2023年1月14日(土)〜2月5日(日)に開催しました。
3館のスタンプをすべて獲得すると、特典として「おでかけしきょうそん」=館のSNSで人気の青銅器「鴟鴞尊」(しきょうそん)の3D ARフォトフレームが2月26日(日)まで使用できる、という企画です。
▼青銅器スタンプラリー
今回の展覧会は、ファンの方はもちろん、まだ青銅器を知らない方にもその楽しみ方や魅力を知っていただきたいという思いがありました。
また港区にある、中国古代青銅器をお持ちの根津美術館さまと松岡美術館さまが、ちょうどおなじ時期に中国青銅器を展示されていたこともあり、「港区内でさまざまな中国古代青銅器が見られる!」というプレミア感もアピールでき、いい機会なのではないかと思いました。
──デジタルスタンプラリー企画の成果について教えてください。
橋本様:スタンプラリー参加者数は178名、特典獲得は53名でした。3館全て回られた方が53名ということになります。
スタンプ達成してくださった方は全員「ARおでかけしきょうそん」を使ってくださり、お出かけ先での記念撮影をSNSで紹介してくださった方もいらっしゃいました。
また、3館合同のトークイベントも開催、メディアにご紹介いただいたこともあり、3館に足を運んでいただく機会を複合的に創出できたかと思います。
青銅器サミットにも行きたかったがチケット完売だったので、おでかけしきょうそんを連れ出している。ほーら科博名物シロナガスクジラだよ。しきょうそん巨大化できるんだし怪獣大決戦みたいな構図には…ちょっと無理か… pic.twitter.com/iyOJmvN6od
— wordcage (@wordcage) January 21, 2023
ーー期間限定でのスタンプラリー×AR企画でしたが、達成度はイメージしていたものと比較していかがでしたか。
橋本様:最終的に、3館すべて回ってくださった方が50人以上もいたという想像以上の成果を出せて、参加してくださったみなさんには本当に感謝しています。
ただ3館の展覧会の期間が決まっていたため、告知期間も短く、実際のスタンプラリーの実施期間ももう少し長くできればよかったというのはありました。展示をしっかり見ると時間はあっという間に過ぎてしまうため、1日で3館を回るのはむずかしいからです。SNSでも「1日ですべて回ろうと思ったけどできなかった」というつぶやきも見られました。実際にログで確認しても、平均達成時間が5日なので、土日や週をまたいで参加してくださる方がほとんどでした。
今回のスタンプラリーの開催時期は、当館としては展覧会が始まって間もなく、お客様がこれから増えていく、という時期でした。また当館としても比較的年齢層が高めのお客様が多い中で、「デジタルスタンプラリー×ARフォトフレーム」という企画にこれだけの方にご参加いただけたのは、得難い経験だったと思っております。
また、他館の方から「青銅器を取り上げたことで、普段よりも青銅器のハガキが売れています」といううれしいご報告もありました。地域として青銅器に注目する機会を作って盛り上げられたことで、波及効果も生まれていたのかなと感じています。
ーーSNS上での反応も多数見受けられましたね。
橋本様:SNSでは 出かけた先のあちこちで「ARおでかけしきょうそん」を出現させて、おもしろい写真をアップしてくださるお客様もいらっしゃいました。
スタンプラリー実施期間は2月5日まででしたが、「ARおでかけしきょうそん」は2月末まで使えるように設定していました。ログを確認すると、2月最後の土日には写真の撮影件数が100件を超え、特典を獲得された方には最後までARを遊んでいただけたようです。
はじめての試みだったので、正直、想像がつかない部分は多かったです。とくに景品は、クリアファイルや絵葉書などのわかりやすい品物と違って、「ARの3Dしきょうそん」という特典のメリットがどの程度伝わるか。SNSに画像を載せて「こんな写真が撮れますよ」と情報発信はしていたものの、実際に「やってみよう」と思ってくださる方がどのくらいいるか、不安はありました。
ただ、展覧会で作品を見るだけでなく、こういった作品の楽しみ方に対する新たなニーズも見えてきました。
▼表示に対し写真撮影の回数が多い。またスタンプラリー終了後にも継続して体験されている。
▼圧倒的に女性に支持されていることがわかる。
──今回デジタルスタンプラリーを企画してみて、いかがでしたか?
橋本様:今までは主催側ではなく参加側だったため、一からスタンプラリー企画すること自体が初めてでした。ただ紙スタンプラリーとなると、参加想定をして、印刷業者に依頼を出し、できあがった印刷物を他館でも確認していただく必要が出てきます。またスタンプを作成するためには線画を起こして発注をかけ、出来上がったスタンプ台と台紙を合わせて送って、台紙がなくなったら刷り増しして…。といった工数をデジタルスタンプラリーでは一切考えなくていいというのは、非常に大きいと思います。
実際に今回は、他館の方に「テストページで動作確認をしてください」とお願いする程度のやりとりで済みました。ARフォトフレームの作成は、業者さんとの間ですり合わせは必要でしたが、スタンプラリーの台紙やマーカー画像など自作の部分は、修正に関しても自分自身ですぐに直せるため、リードタイムは印刷物より短くできると感じます。
景品の準備も、何名参加してくださるかわからない状況で、いくつ用意するべきか悩む必要もありません。ロスも出ず、足りなくて代わりのものを用意するといった必要もなく、気持ち的にはとても楽だったと思います。
ーー企画準備〜開催期間中、企画の運営は何名でご対応されていたのでしょうか?
橋本様:企画の発案から準備・運営まで、基本的には私1人で行いました。
10月頃にInnovateMUSEUM事業助成の採択がわかってから、COCOAR担当者の方と打ち合わせをし、急いで契約しました。契約後は使い方を覚えるところからのスタートでした。他館からいただいた画像からスタンプやマーカーを作成し、12月末にはマニュアルをまとめ、1月半ばスタートに間に合わせるスケジュールで進めていきました。
ーーそこから館内のスタッフさんや他館の方にご説明されたのですね。
橋本様:他館へのご説明は、スタッフの方が一目見て一通り画面通りに操作していただければわかるような形にまとめて、年末年始にかけてメールでお送りしました。
また当館Webサイトでの告知も、非常にタイトなスケジュールでした。たとえばデジタルスタンプラリーの遊び方についても、画像つきや動画で説明している他社事例をご紹介いただき、そういったWebサイト・SNSを参考にしながら当館なりにアレンジする形で準備しました。
お知らせページへの掲載まで、すべて1人で作業したため心細いことも多かったのですが、担当者の方には、1・2週間に1回くらいのペースで打ち合わせをしていただき、ご相談にのっていただき、とても助かりました。
ーー他館の反応はいかがでしたか?
橋本様:事前に「ARアプリダウンロードや特典ARの表示がうまくいかないお客様へのご対応」についてはお伝えしていましたが、幸いにもスタンプラリー期間中、とくに他館からの質問やトラブル報告はありませんでした。
美術館の間で実施するスタンプラリーは、基本的にスタート・ゴール地点を設定せず行います。ある美術館で「こんなのやっているんだ」と知り「じゃあ次はここも行ってみようか」と進んでいくため、台紙や景品の偏在調整がつきものでした。
今回「景品交換までデジタルで完結できるようになっています」とお伝えできたのは、他館にお願いする上でもよいポイントでした。なるべく工数をかけず、スタッフにも負担をかけず、管理業務を簡潔にするという当初の目標が実現できたのは、デジタルで実施してよかった点です。
──実際にCOCOARで企画を実施してみて、「クラウドサーカスだからできる」と思った点があれば、おうかがいできますと幸いです。
橋本様:事例が豊富で参考になる部分も多く、またご担当者の方に「こういうことやってみたい」とご相談すれば、「こういうやり方をしてみてはどうですか」と提案を返してくださり、企画も組み立てやすかったと思います。
「COCOAR」を選んだのは、「デジタルスタンプラリー×AR施策が実現できる」というのが理由でしたが、実際に使ってみたことで、さらにいろいろな活用方法がイメージできました。たとえば、ARの画像マーカーにもいろんな種類があったり、そこから動画を呼び出せたりと、考え方次第で活用の幅を広げられるツールだと感じます。
ーー担当者の対応も含めて、企画を進める上で印象に残っていることなど、いかがでしょうか?
橋本様:私自身ほかにもいろいろな業務にあたっている中、どこまでできるかわからない部分もありました。今回の企画も、私のリソースが回らない部分をご担当者の方にフォローしていただいたおかげで実現できたと感じています。
また定期的に打ち合わせをしていただけたことで、1人で取り組む上では、「それまでに準備しよう」と作業を進められた環境もよかったと思います。
「やりたい」という気持ちとイメージはあっても、何をどうしたら良いかまったく見当もつかない、という状態からのスタートでしたが、初回の相談以降、定期的なオンライン打合せでフォローいただきました。ご紹介いただいた過去の事例などを参考になんとか実施に漕ぎ着けたと思います、ありがとうございました。
ーー今後の展望がございましたらお聞かせください。 フォーム入力後、資料をダウンロードできます。 この記事を書いた人 導入実績7,100社以上を誇るARプロモーションツール「COCOAR(ココアル)」のプロダクトチームが運営。
2012年からARアプリ「COCOAR」をはじめ、ウェブAR「LESSAR」を開発・提供しているクラウドサーカスが保有する「AR」に関するお役立ち情報を配信しています。
橋本様:自館の来館者を対象としたリピート施策として、展覧会ごとの来館スタンプカードを計画中です。以前から「いつかやってみたい」と思っていましたが、台紙を作成・印刷し、スタンプも展覧会毎に用意したほうが楽しそうだけどデザインは…そもそも期限の設定、参加者数の見込みは…?など、考えるとなかなか手をつけられずにいたのですが、その点でデジタルスタンプラリーは取りかかりやすいと思います。
今回のデジタルスタンプラリーをきっかけにCOCOARをダウンロードしてくださったお客様、次回展以降来館のお客様にも、年間通じて当館をいろいろな形でお楽しみいただけたらいいなと思います。
とくに去年からは、国の方針として美術館や博物館のDXを推進する流れも強くなってきました。作品のデジタル化を進めつつ、デジタル化したデータをどう活用するか、という部分も求められているように感じます。
学術的にデータを活用していくのは学芸員さんのお仕事ですが、私の方では広報や教育普及の面で、幅広いお客様に親しみやすく当館や展覧会、作品の魅力をお伝えしていけたらと思っています。そういった面で、御社のシステムはいろいろな可能性があると思いますので、事例を参考にさまざまな方法で活用し、機会があれば他館にもお伝えしたいですね。
──今後もお手伝いさせていただければと思っております。ありがとうございました!
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COCOAR編集部
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